
―権限と一緒に渡すべき「判断基準」とは
「社員にもっと任せたい」
「自分がいなくても会社が回るようにしたい」
「いつまでも自分が全部判断する状態から抜け出したい」
会社が成長し、社員が増えてくると、多くの経営者がこう考えるようになります。
そこで、組織図をつくり、役職を決め、評価制度を導入し、会議も定例化する。
ところが、仕組みを整えたはずなのに、なぜか社長の仕事は減らない。
社員からは相変わらず、
- 「社長、この見積金額で出していいですか?」
- 「この協力業者に発注して大丈夫ですか?」
- 「追加工事はこの金額で受けていいですか?」
- 「この人を採用していいですか?」
- 「この設備を買っていいですか?」
と質問が上がってくる。
なぜでしょうか。
原因は、単純な「権限委譲不足」だけではありません。
社員に仕事や権限は渡していても、判断基準までは渡していない。
ここに、社長依存が残り続ける大きな原因があります。
社長依存とは「社長が忙しいこと」ではない
私が考える社長依存とは、社長が忙しいことでも、現場に出ていることでも、社長自身が営業していることでもありません。
本当の社長依存とは、
会社の重要な判断基準が、社長の頭の中にしか存在していない状態
です。
例えば建設会社なら、
- どこまで値引きして受注してよいのか
- 赤字覚悟でも受注する案件はあるのか
- どの協力業者を優先するのか
- 現場代理人にどこまで任せるのか
- 追加工事をどの条件ならその場で判断してよいのか
- 職人を一人採用してよいのか
- 車両や重機を買ってよいのか
こうした判断が、すべて社長に集中している。
この状態では、社員を増やしても、管理職を置いても、最後は社長に判断が戻ってきます。
「任せる」と「自分で判断できる」は違う
例えば工事部長に、
「現場のことは任せた」
と伝えたとします。
しかし、
- どのくらいの粗利率を確保するのか
- 値引き後、最低どの程度の粗利を残すのか
- 追加工事をいくらまで現場判断してよいのか
- どの条件なら戦略的に低採算でも受注するのか
- クレーム対応でどこまで費用を使ってよいのか
が決まっていなければ、部長は判断できません。
結果、
「念のため社長に確認しておこう」
となります。
ここで重要なのは、社員の能力ではありません。
判断材料が渡されていないことです。
権限委譲とは、単に「任せること」ではありません。
判断基準とセットで権限を渡すことです。
組織を仕組み化するだけでは、社長依存はなくならない
組織図や役割、評価制度、マニュアルを整えることは重要です。
しかし、それらによって決まるのは主に、
「誰が何をするのか」
です。
一方、社長依存を解体するためには、
「何を基準に判断するのか」
まで明確にする必要があります。
社員の行動を仕組みにするだけではなく、経営判断そのものを仕組みにしていく。
ここまで行って、初めて会社は少しずつ自走し始めます。
社長依存を解体する5つの要素
そのために、私は次の5つを一体で整えることが重要だと考えています。
理念・数字・役割・権限・会議体
です。
この5つは、それぞれ独立しているわけではありません。
理念と数字を判断基準にし、役割と権限を明確にし、それを会議体で継続的に運用する。
一つの「意思決定システム」としてつなげることが重要です。
1.理念―会社として何を基準に判断するのか
理念というと、
「会社案内に載せるもの」
「朝礼で唱和するもの」
という印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、社長依存を解体するという視点では、理念にはもっと実務的な役割があります。
それは、
判断の方向性をそろえることです。
例えば、
- 利益は出るが、自社の考え方には合わない仕事を受けるのか
- 納期を優先するのか、品質を優先するのか
- 顧客から無理な要望があったとき、どこまで応えるのか
こうした場面で、毎回社長に聞かなければ判断できないのであれば、会社の価値基準がまだ共有されていません。
理念が曖昧な会社ほど、社員は、
「社長ならどうするだろう」
と考えるようになります。
理念とは、きれいな言葉をつくることではありません。
社長の中にある価値判断を、会社の共通言語に変えることです。
2.数字――「やりたい」を「会社としてできるか」で判断する
二つ目は数字です。
中小企業では、会社全体の数字を理解しているのが社長だけ、というケースも少なくありません。
管理職には売上目標を伝えていても、
- 粗利はいくら必要なのか
- 固定費はいくらかかっているのか
- 最低いくら利益を残す必要があるのか
- どの程度の借入まで許容できるのか
- どれだけキャッシュを残しておくのか
までは共有されていない。
そうすると、
「人を一人増やしたい」
「新しい車両が欲しい」
「この機械を買いたい」
という話が出るたびに、社長が判断することになります。
社員からすると、
「欲しいか、欲しくないか」
までは考えられても、
「会社として投資できるか」
までは判断できないからです。
数字が共有されていれば、社員自身が、
「やりたい」から「会社としてできるか」へ判断軸を変えられるようになります。
権限を渡すのであれば、数字も一緒に渡す必要があります。
3.役割―何について責任を持つのか
三つ目は役割です。
工事部長、現場代理人、営業責任者、積算担当といった肩書があっても、何について責任を持つのかが曖昧な会社は少なくありません。
例えば工事部長であれば、
- 売上
- 粗利
- 工期
- 品質
- 安全
- 部下の育成
のうち、どこまで責任を持つのかを明確にする必要があります。
役割を決めるとは、肩書を与えることではありません。
何について結果責任を持つのかを明確にすることです。
4.権限―どこまで自分で決めてよいのか
役割を決めたら、次は権限です。
ここで重要なのは、具体性です。
例えば、
- 値引き後も会社で定めた最低粗利率を確保できる範囲なら、営業責任者の判断で値引きできる
- 10万円未満の現場備品は、現場代理人の判断で購入できる
- 年間採用予算100万円の範囲内なら、求人の出稿と一次面接までは工事部長の判断で進められる
- 追加工事が20万円未満で、所定の粗利基準を満たす場合は現場代理人が判断できる
というように、
誰が、何を、どの条件まで決められるのか
を明確にします。
金額や基準は会社によって当然異なります。
重要なのは、社長の頭の中にある「このくらいなら任せて大丈夫」という感覚を、具体的な条件に変えることです。
権限とは「好きにやっていい」という意味ではありません。
理念と数字という判断基準の中で、自分で決められる範囲を明確にすることです。
5.会議体―報告する場所から、判断する場所へ
最後が会議体です。
社長依存が強い会社では、会議が「報告の場」になっていることがよくあります。
報告中心の会議
- 各担当者が数字や進捗を報告する
- 問題が出る
- 最後に社長が答えを出す
- 社員は指示を持ち帰る
これでは、会議をするほど社長に判断が集中します。
一方、目指したいのは「意思決定の場」です。
意思決定中心の会議
- 議題を明確にする
- 事実と数字を確認する
- 理念や判断基準に照らして選択肢を検討する
- 結論を出す
- 担当者と期限を決める
- 次回確認する
この流れをつくることで、会議が、
「社長から答えをもらう場所」
から、
「組織として答えを出す場所」
に変わります。
社長への個別相談を減らすためにも、会議体の設計は非常に重要です。
5つを一つの意思決定システムとして回す
重要なのは、5つをバラバラに導入しないことです。
権限だけ渡しても、数字が分からなければ判断できません。
数字が分かっていても、会社が何を大切にしているのか分からなければ、難しい場面で判断できません。
理念と数字があっても、誰の責任なのか決まっていなければ動きません。
役割が決まっていても、どこまで自分で決められるのか分からなければ、社長に確認します。
そして、これらを確認し、改善し続ける会議体がなければ、時間とともに形骸化します。
つまり、
理念・数字・役割・権限・会議体
を一つの意思決定システムとして設計し、継続的に回していく必要があります。
社長依存解体とは「社長を不要にすること」ではない
ここは誤解してほしくないところです。
社長依存を解体する目的は、
「社長がいなくてもいい会社」
をつくることではありません。
むしろ逆です。
社長にしかできない仕事に、社長が時間を使える会社をつくることです。
本来、経営者が時間を使うべき仕事には、
- 会社の未来を考える
- 次の事業を考える
- 重要な人材と会う
- 投資判断をする
- 理念を伝える
- 会社が向かう方向を示す
といったものがあります。
ところが実際には、
- 見積の承認
- 小さな値引き判断
- 現場間の調整
- 社員同士のトラブル
- 細かなクレーム対応
- 日々の確認
に時間を取られている経営者も少なくありません。
こうした仕事ですべての時間が埋まってしまえば、会社の未来を考える余白はなくなります。
だからこそ、
社長がやらなくてもよい判断を、会社の仕組みに移していく。
これが「社長依存解体」です。
売上が増えるほど社長が忙しくなっていないか
創業期は、社長依存でも問題ありません。
むしろ、社長が営業し、現場を見て、その場で判断するからこそ会社は成長します。
しかし、社員が増え、売上が増え、組織が大きくなっても同じ経営を続ければ、やがて社長自身の処理能力が会社の成長上限になります。
売上が増えるほど忙しくなる。
社員が増えるほど相談が増える。
管理職をつくっても判断は社長に戻ってくる。
そんな状態になっているとしたら、社員の能力ではなく、
会社の判断基準が、まだ社長の頭の中に残っている可能性があります。
あなたの会社は、どこまで「判断基準」を渡せていますか?
最後に、次の5つを確認してみてください。
- 理念:社員が会社の価値観を基準に判断できるか
- 数字:管理職が利益やキャッシュを踏まえて判断できるか
- 役割:誰が何について責任を持つか明確か
- 権限:誰が、何を、どこまで決められるか明確か
- 会議体:社長に聞かなくても、組織として意思決定できる場があるか
この5つのうち、
「結局、社長しか分からない」
というものがあるなら、そこに社長依存が残っています。
私が提供している「社長依存解体コンサル」では、10回で完結するプログラムを通じて、理念・数字・役割・権限・会議体を整理し、社長の頭の中にある判断基準を会社の仕組みに移していきます。
目指すのは、
社長が頑張り続けなければ回らない会社から、仕組みによって人と会社が成長する組織への転換です。
自社のどこに社長依存が残っているのか。
何から仕組み化すればよいのか。
一度整理してみたい方は、初回無料相談をご利用ください。
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